広島高等裁判所松江支部 昭和24年(控)160号 判決 1950年2月27日
被告人
田淵一雄
主文
本件控訴を棄却する。
理由
第一点について。
所論の刑法第二百四十一條の強盜強姦罪は強盜がその現場において婦女を強姦した場合を指すと解すべきところこれを本件についてみるに原審第一回公判調書中被告人の供述記載及び司法警察員に対する柿本八千子の第一回供述調書記載を綜合すれば被告人は当初は猥褻行爲を爲す意思で柿本八千子に対して原判決(一)摘示のような強制猥褻行爲を爲しその後その現場附近で強盜の意思を起し右犯行のため極度に畏怖している同女に対し金を出せと申向けて同女から原判決(二)摘示の金品を奪取したことを認めることができるから原審が右を強盜強姦罪と爲さず強制猥褻罪と強盜罪の二罪と見たのはまことに相当であつて論旨は理由がない。
原判決摘示の(三)の事実について原判決は簡に失する嫌いはあるけれども原審第一回公判調書中被告人の供述記載及び副檢事に対する谷口綾子の第一回供述調書記載を綜合すれば本件犯行現場は鳥取市内ではあるけれども市街地を遠く離れた覚寺地内覚寺峠の附近で人家のない淋しい場所でありしかも当時は通行人なく相手は当時十八歳の少女で被告人は当時三十二歳の靑年であり被告人はこの少女を追跡して呼び止め肩に手をかけ引張るように自轉車から降して「金を出せ」と申向けたのであるからかような状況の下における「金を出せ」との一言は優に相手の反抗を抑圧するだけの威力をもつものというべく現に同女は非常な恐怖心にかられたことを認め得るからこれ等の点を綜合するときはその際被告人は同女の反抗を抑圧して金員を強取したものと認定するに充分である。それ故この事実を目して恐喝罪なりとする弁護人の論旨は理由がない。
第二点について。
原判決は犯罪事実に対して法令を適用するにあたり弁護人所論の通り單に法條を羅列しただけでその説明を加えなかつたのは簡に失する嫌いはあるけれどもかようにしたからと言つて刑事訴訟法第三百三十五條所定の「法令の適用」を示さなかつたとは言い難く又併合罪の規定を適用するにあたり強制猥褻罪と強盜罪とは強盜罪が重いことは法文に照して明かであるのみならず原判決摘示の(二)(三)の強盜罪について法定刑が何れも同一であつてしかも犯情に輕重がない場合にはその何れを重しとするか特に判示する必要ないものと解するを相当とするから(昭和二四年れ第五〇二号同年六月九日第一小法廷判決)論旨は理由がない。